これまで、大学も学部も国境も飛び越えて、その時々で一番関心のあることに邁進してきた。常々考えているのは、人と自然が共生する社会の実現である。20世紀、科学技術と経済は大いに発展したが、自然環境や文化は大いに破壊された。例えば、20世紀の日本1では、ニホンオオカミなど7種の哺乳類、トキなど15種の鳥類が絶滅している。ニホンオオカミの絶滅が、近年のシカやイノシシの急増の要因の一つとも考えられている(コロナ禍は、大規模な自然破壊によって人類とウィルスが不要な接触をしたことに起因するという研究もある)。

  *1地球の陸地面積のうち、日本はわずか0.25%に過ぎない。

 

コロナ禍をもたらしたもう一つの要因が、20世紀に加速した都市化である。人間が集住することで、利便性や効率性を向上させる効果がある一方、「密」な状況が、感染症の温床となった。自然災害や感染症、戦争、飢餓といった人類の生存を脅かす事象に対して、都市がいかに脆弱であるか、私たちはコロナ禍や東日本大震災を通じて認識した。東京に集められた税や財源を地方に公共事業として分配し、自然破壊を行う20世紀の日本型成長モデルは、限界をむかえて久しく2、ポストコロナ(21世紀)においては、いかに人と自然が調和した形で、多元分散型の社会を構築できるかが、重要な社会的課題となっている。

  *2莫大な維持管理費に対して、超高齢社会と人口減少(つまり、租税収入の低下と社会保障費の増大)というミスマッチがある。近  

   代史を振り返ると、自然破壊は文化破壊でもあったことが分かる。

 

私は、人と自然が共生する社会の実現に向けた社会の仕組み(法律・制度・組織)をデザインすることに関心を持っている。

 

これまで、国立公園や世界遺産、ユネスコエコパーク(Biosphere Reserve)等の保全管理政策を対象に21世紀型の自然保護地域のあり方について、ガバナンス論(法制度、行政、組織)の立場から研究してきた。生物多様性や気候変動、持続可能性を考慮すると、人と自然を区別して原生自然のみを保護するという従来の手法には限界がある(例えば、日本における絶滅危惧種の半数は里地里山等の二次的自然に在る)。一方、生業や観光、農林水産業といった人間活動を伴う地域は、複雑な土地所有や重複した法制度、多様な利害関係者、脆弱な行政資源という特徴を持っている。こうした複雑性を有する地域における意思決定や実施構造、参加や情報共有の仕組みがどうあるべきか、歴史学や官僚制、サステイナビリティ学など関係領域のアプローチも用いながら研究している。

 

 

また、豊かな自然環境や文化は、島嶼や山岳、農村に多く残っているため、こうした地域の未来や食文化にも強い関心を持っている。とりわけ、醸造や発酵に関心があり、東京大学では、「醸造研究会」を主宰し、分野融合を推進してきた。ここ糸島でも、分野や年代を超えて色々な人と交流できればと考え、誰でも参加できる月に一度のBeyond the boundaryラボを開始した。東京大学に残している大学院生のみならず、高校生から公務員まで幅広い人が参加している。